訪問歯科治療


・認知症の特徴的な症状
⑴ 中核症状
代表的な症状には記憶力の低下、計算や判断力の減退、場所や時間の見当がつかなくなる見当識障害などがあります。歯科治療の時や口腔衛生指導時にはコミュニケーションをとりながら診療や指導が行われ、他の医療現場に比べて歯科医療時は中核症状に気付く機会が多いことが特徴です。
⑵ 周辺症状
行動面や心理面の症状で。介護の上でも問題となることが多く見られます。
抑うつ、興奮、徘徊、睡眠障害、妄想などが代表的な症状で、認知症初期に出やすいものとして不安感や気分の沈みがあります。不安障がいのような漠然とした不安感がでた場合には、歯科診療や口腔衛生指導の時の不安な状態から、早期に周辺症状を発見する機会が多いです。

認知症の分類

4つの型

⑴ アルツハイマー型認知症

認知症の中で最も多いのがこの型で全体の65%を占めています。この認知症では、脳細胞が委縮・変性し、少しずつ能力が低下していきます。 何事にも興味、関心を示さなくなることもあり、趣味などのやめてしまうこともあります。そのような人の場合には口腔ケアに対する意欲もなくなりますので、歯科医療や口腔保健指導での気づきが早期発見の窓口になることも多いです。

⑵ 血管性認知症

この認知症は全体の20%を占め、脳内の毛細血管に血栓や塞栓が出来ることで、血流が途切れ微小な脳梗塞が起きて発病します。脳内で梗塞ができた部分の障害が出る一方で、障害をうけていない部分は全く正常に脳が働きます。そのため血管性認知症の特徴は、できることとできないことが極端に分かれる「まだら認知症」なり、新たに梗塞が起きるまではある程度安定していますが、新たに梗塞が起きると状態が悪化するという特徴を持っています。そのため自尊感情がしっかりしている方には、自尊面での傷つきが起きないように配慮が必要です。いったん脳の血管に障害が起きると、喜怒哀楽の変化がきわめて大きくなり、前までニコニコしていた方が、ちょっとした治療や口腔保健指導のための発言で急に激怒することがあります。歯科指導の際に喜怒哀楽が激しくなった場合には、血管性認知症の可能性があり、認知症に気付くこともあります。

⑶ レビー招待型認知症

全体の15%を占めます。特徴的な症状として「幻視」をともない、「何かが見える」などを訴えること、パーキンソン症状を伴うため、これまで認知症と診断されなかったこともあります。アルツハイマー型認知症と比べると、かつての記憶などはよく覚えていることがあるのも特徴です。幻視の症状や起立性低血圧などから歯科受診の際に症状を発見できた例も少なくありません。

⑷ 前頭側頭型認知症

この認知症は全体の数%で多くありませんが、前頭部と側頭部が委縮するもので、特徴は「無頓着さ」が出てくることです。また、「同じことを繰り返して行う」という反復行為をし、歯科診療の際にも注意して観察していると、それぞれの人に見られるこだわりのパターンに気付くこともあります。

認知症と食事

認知症の食事の障害は、大きく分けると「口に入れるまで=食行動の障害」と「口に入れてから=嚥下障害」分けられます。認知症が軽度の場合は、主に食行動の障害が目立ち、重度になると嚥下障害が目立ってきます

1. 食行動の障害がある方への対応

認知症では、鯨飲疾患の違いによりそれぞれ特徴的な食行動がでることがあります。なので、原因疾患別の特徴を考えて対応をする必要があります。

しかし、原因疾患だけでなく、その人の性格、これまでの生活、おかれている状況によって食行動は大きく影響されます。

アルツハイマー型認知症では、食事を食べ始めない、途中でやめてしまう、食べ方がみだれる、といった食行動の障害が出てきますが、これらの症状もその人の性格・生活・状況によって影響を受けます。

介助者は、食行動障害を否定せずに受け止めて、その人の性格・生活・状況を共有し、それから適切な方向に誘導することが支援のこつとなります。

これが共有できないと、食行動の障害は介助の手間を増やす「問題行動」といわれてしまいます。しかし、これを問題と感じるのは介助者の理解不足からくることもあり、認知症の特徴を知り、行動の理由がわかれば改善策が検討、予測でき受容することが出来るようになります。 このことから次のような対応を検討・考慮し、心がける必要があります。

「食行動の障害への対応」

・声かけ  

・ペーシング  

・サーカディアンリズムの調整  

・マッサージ、嚥下体操  

・食器の選択  

・食事のにおい、味つけ  

・全身状態の把握  

・異食への対応

2. 嚥下障害がある方への対応

血管性認知症以外の認知症初期では、嚥下障害はあまり認めません。しかしながら、症状の進行に伴い、飲み込まない、口からこぼれる、ムセる、といった嚥下障害が出現し、その結果として低栄養、誤嚥、窒息などの症状が生じてきます。 嚥下障害がある方にはこのような症状を回避する対応を心がける必要があります。

「嚥下障害への対応」  

・食事を摂る時間帯  

・食事時のポジショニング  

・食事内容の工夫  

・一口量の調整  

・食事の介助  

・歯科治療  

・服薬方法の指導

認知症と歯科治療

認知症の病態は口腔に直接影響を与えませんが、周辺症状(行動・心理症状)が口腔の衛生状態の悪化や口腔ケアを含む歯科治療を困難にして、歯科的問題を引き起こします。食行動異常や服用薬物の副作用が口腔環境を悪化させ、無気力無関心や介助拒否による口腔ケア不足が虫歯や歯周病を進行させ歯の欠損を増加させます。さらに義歯の装着拒否によって咀嚼状態が悪化し、口腔機能全般の低下を引き起こし低栄養に陥り、全身状態の悪化につながります。

1. 歯科関連の症状  

・虫歯、歯周病  

・咀嚼障害  

・口臭  

・開口障害  

・摂食嚥下障害  

・口腔乾燥症、味覚障害