口腔外科


治癒過程

抜歯した部位の治癒過程はこのようになります。

1.抜歯後、血が止まり抜歯窩は血餅で満たされる

2.約1週間で幼若な肉芽組織に変わる

3.20日ぐらいで線維性結合組織に器質化される

4.仮骨形成が起こる

5.その後、約6~12か月で骨改造がなされ。成熟した骨組織になる

通常は40日以内には完全に上皮で覆われます。

また、上皮で覆われる面積が小さいほうがいいので、抜歯窩の治癒には歯根膜の保存とともに抜歯創の断面積を小さくするために縫合して小さくしておくことは有効です。

このように抜歯をした部位の治癒は、抜いた骨の凹みに血の塊(血餅)で満たされることから始まります。血餅はカサブタの役割をしており、露出した骨面を覆い守ってくれます。カサブタは抜いた抜歯窩が治るのに非常に重要で、これがないと治癒過程が正常に進んでいかなくなってしまいます。なので、抜歯した部位を、過剰にうがいしたり、気になって舌で傷口をなめたりすることで血餅がはがれてしまうと血餅で満たされる環境ができず、治癒が遅れて抜いた後の痛みが強くなったり、骨面が露出するドライソケットといわれる治癒不全を起こしてしまいます。

血餅で満たされた抜歯窩は、その後1ケ月くらいかけて、骨から血餅の中へ血管が入り込み、それが肉芽組織に置き換わり、その表面は歯ぐき(上皮)が伸びてきて、ほぼ治癒します。歯を抜いたところがさらに、骨に置き換わるのは、成人ならば半年以上はかかるようです。また、骨に置き換わらない場合もあります。

抜歯後の治癒では、まず抜歯直後の止血を行うことです。傷口をガーゼで圧迫することによる止血方法が一番効果的です。傷口を糸で縫ってしまい完全に閉鎖してしまう必要は必ずしもありません。無理に傷口を閉鎖するために歯茎を無理やり引っ張ったり、傷を大きくして縫合することで、傷の治りが悪くなってしまうことがあります。抜歯をした当日は唾液に血がにじむ程度の出血が起こることがありますが、抜歯窩からどんどんにじみ出てくるような出血でなければ異常出血ということではありません。

止血後は、血餅が早期に剥げ落ちないこと、抜いた抜歯窩から細菌が侵入して感染を起こさないようにすることが重要です。感染予防のために、抜歯後、抗生物質を服用します。出血を気にしてうがいをすると、血餅が早期に剥げ落ち、骨がむき出しになり逆に治癒を悪くしますので、注意が必要です。また、舌で歯を抜いた穴にたまった食渣(食べかす)などの異物が気になり、過度になめたりして取ろうとする行為も、正常な組織まで取ってしまうことになり、治癒を悪くしてしまうことがあります。

抜歯後に縫合を行った場合は原則的に、翌日に消毒、問題なければ1週間後に抜糸、抜歯した部位の傷が深い場合は2週後、4週後と経過観察を行い、正常な治癒過程が行われているか確認します。

抜歯後の注意事項

1.歯医者さんで抜歯した当日は過度な運動、入浴、飲酒は極力控えてください。抹消血管が拡張して、腫れや痛みの原因となったり、再度出血するおそれがあります。

2.抜歯当日から翌日にかけて溶けた血が唾液に混じった状態が続くことがあります。唾液に血が混じると、多量に出血していると錯覚しやすいのですが、ほとんどの場合、心配要りません。気になるときは、再度お家でガーゼか脱脂綿を20分間、強く咬んでください。これは、傷を圧迫して血を止めるためです。ガーゼを20分間咬んでも、持続的な出血が続いたり、傷の上に血の塊が盛り上がってきたり、口の中が血の塊でいっぱいになるというような時は、歯科医院に連絡、相談して下さい。(夜間の対応は大阪府歯科医師会で毎日午後9時~翌午前3時まで診療しております。寝屋川市在住の方でも診察してもらえます。)

3.うがいを何度もすることはやめてください。うがいによって固まった血がはがれたり、流されたりすると、止血しません。また、一度止まってから再度出血することがあります。

4.麻酔は2~3時間程度効いていますので、お口の中を傷つけてしまっても気がつきません。麻酔がきれるまでは、極力食事等かむ必要がある行為は控えるようにしてください。その後の食事は、刺激の強いものは避けてください。痛みがなければ普通の食事をとってかまいません。痛みがあるときは状態にあわせて、柔らかく痛みが増さないようなもの、噛む操作が少なくて食べれるような物を適宜とります。

5.抜歯後の痛みは、抜歯する部位、歯の状態、病巣の様子などによって違います。親知らずを抜いたときなどは、数日間痛みが続く場合もあります。痛みが強いときは、我慢せずに歯科医から処方された鎮痛剤を飲んでください。(術中は麻酔が効いていましたが、麻酔が醒めると痛みが出現します。早めの鎮痛剤服用をすすめますが、過量にならないよう注意して下さい。追加は必ず6時間あけて、一日3~4回までが目安です。)
 
6.腫れがあって冷やす場合は、氷で直接冷やすのではなく、水道水で湿らせたタオルなどで冷やしてください。
(腫脹は翌日から4,5日目まで続くことがあります。難しい抜歯では、骨を削る必要があり、腫脹の主原因となっています。腫脹が強い場合、必要に応じ点滴治療を行いますので連絡下さい。)

抜歯後に起こる偶発症

1.発熱

抜歯後当日から2、3日間ほど38℃台の発熱があることがあります。それ以上続くようであれば、感染の可能性があります。また、稀ですが、大変恐い合併症として、口腔の菌が血中にはいり、心臓の内膜で増殖する事もあります。抗生物質はきちんと服用し、安静を守って下さい。

2.痺れなど感覚異常

麻酔によるものと神経損傷によるものがあります。麻酔によるものはほとんどが当日で回復します。極めて稀に、麻酔の針が直接、神経に刺さり、神経損傷を引き起こすこともあります。手術による庫れは、下の親知らず(智歯)の場合、術中に神経が露出した場合に発生する事が多く、ほとんどが自然回復しますが、残念ながら回復しない場合もあります。回復しない場合、ビタミン剤が有効の時もありますが、確立された治療はありません。2年以上経っても改善なければ、残念ながら改善の見込みは低いと思われます。

3.皮膚の色素沈着

抜歯終了時は止血を確認して終了していますが、その後の内出血が原因で皮膚にいわゆる青アザができる事があります。発現は稀で自然に消失しますが、1ケ月以上かかることが多いです。特に、女性の方は気になるかもしれません。