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摂食嚥下障害の対策

摂食嚥下とは、食物を認識してから口に運び、取り込んで咀嚼して飲みこむまでのことを意味します。

今回は身近なことから始められる摂食嚥下リハビリテーションを紹介します。日常生活の中で何気なく行っている動作を意識的に取り組むことでリハビリテーション効果を高めることができます。

座位の保持・歩行

安全に食事をするには、安定した座位を保持することが必要です。なぜ食事をする際には起こした状態が必要かというと、まっすぐ立っている時、あるいは座っている時は一体となっている下顎と舌に重力が下向きの力をかけ、口は開けやすくなります。また、胸郭が広がり十分に呼吸ができる状態で、咳払いもしやすくなります。

ベッド上での生活が多い場合は、身体を起こして車椅子に乗ることが、体幹を保持するための筋力トレーニングとなり覚醒を促します。トイレや洗面台などに行く、テレビをみるなどの動作は、体幹・四肢の筋力アップとなり、基礎的な体力をつくり安定した座位を保つことにつながります。

歯磨き・ブクブクうがい

歯を磨くには歯ブラシを持ち、口の中に入れなければなりません。その際に歯ブラシを持つ指先の力と持った歯ブラシを口まで運ぶ上肢の力、歯ブラシをゴシゴシと動かす運動が必要となります。また、ブクブクうがいでは唇がしっかり閉じられること、頬や舌の付け根の筋肉が作用することでできます。ブクブクうがいは食物の捕食や口の中での保持、食塊形成(飲食物を取り込み咀嚼し、唾液と混ぜながら飲み込みやすい形を作ること)に必要な口唇、舌、頬などの運動になります。

着替え

着替えをすることは腕、肩、頸部、肩甲骨周囲(僧帽筋など)、四肢の運動となり関節可動域の拡大と維持につながります。また、着替えの際に手を広げる動作をすることで胸郭が拡張し、嚥下をする時に関連する呼吸の筋肉によい影響をもたらします。

会話

口唇や頬、舌などの口の周囲の運動機能は、筋肉を使うことにより向上します。おはようやこんにちはなどの挨拶や日常的な会話が構音訓練となると同時に嚥下時に使用する筋肉のトレーニングとなります。

歌を歌う・音楽を聴く

歌うことで、口唇、頬、舌などの運動になるだけでなく歌う際の息継ぎが、呼吸と嚥下との協調運動である嚥下時無呼吸の確保につながります。また、音楽を聴くことにより認知症患者の嚥下機能が改善されたという報告があります。

嚥下時無呼吸とは食塊が咽頭口から食道に送り込まれる時に、気管に入らないように喉頭蓋が持ち上がり、声門も閉鎖され呼吸が一時的に抑制されることです。鼻から肺への空気の出入りが一瞬停止し、それによって食べ物が食道に誘導されます。

廃用症候群

廃用症候群は、日常生活で長期間の臥床生活(安静の保持や身体の組織や器官への負担を軽減し、病気の回復・治癒のため床上で横たわり生活すること)などによって、身体的、精神的機能が全体的に低下する状態です。筋萎縮、関節拘縮、褥瘡、認知症、起立性低血圧などの症状がみられます。口に関しては口腔周囲筋の筋力低下、舌の萎縮などがみられます。

特に高齢者では知らないうちに進行し、気がついた時には起きられない、歩くことができないという状況になっていることが少なくありません。

身体を動かしたり、歩いたりすることは摂食嚥下リハビリテーションだけでなく、廃用症候群の予防にもなります。

まとめ

このほかにも、熱い食べ物をフーフーと息を吹きかけ食べるといった、生活に密着した動作を意識的、継続的に行うことで嚥下障害へのリハビリテーションになります。

高齢者の口腔と摂食嚥下の機能を維持・向上していくためには、歯を守ることに加えて、飲込みに関連する様々な筋肉や器官の機能低下を予防することが大切です。日常生活の基本的動作が嚥下機能に関連してきます。全身機能が低下すれば、口腔・咽頭の機能も低下しがちになり、全身機能が向上してくれば、嚥下機能も回復傾向となります。