口腔外科
BP製剤は、骨粗鬆症や悪性腫瘍の骨転移の治療薬として広く用いられています。歯科治療においてBP製剤を服用されている方が、抜歯などの侵襲的歯科治療を行った際にBP製剤関連顎骨壊死(BRONJ)が生じる症例が急増してきています。
特に日本では骨粗鬆症の方がBRONJを起こしていることが多いです。
このような歯科治療を行う際にどのような対応が必要なのでしょうか。
また、近年BP製剤だけでなく、デノスマブ、血管新生阻害剤などの薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)として、歯科治療の際に適切な対応が必要になってきています。
寝屋川市でも超高齢社会をむかえ、ご高齢の方が様々なお薬を飲まれているケースも多く、BP製剤もその中の一つです。このような方が、歯医者さんで歯科治療を行う際には、MRONJの適応疾患や発生リスクを十分に理解し、歯医者さんでの適切な歯科治療を進めることが望まれます。
BP製剤の種類
BP製剤は、骨粗鬆症や変形性骨炎、悪性腫瘍に伴う骨転移、多発性骨髄腫、骨形成不全症、骨の脆弱性を伴う疾患等に広く使われています。
世代 |
一般名 |
投与方法 |
適応 |
第1 |
エチドロネート (商品名:ダイドロネル) |
経口(1日1回 200mg) |
骨粗鬆症 異所性骨化 骨パジェット病 |
第2 |
パミドロネート ( 商品名:アレディア) |
注射(4週1回 30mg~90mg) |
悪性腫瘍 |
アレンドロネート (商品名:ボナロン、フォサマック) |
経口(1日1回 5mg、 1週1回 35mg) 注射(4週1回 900μg) |
骨粗鬆症 |
|
注射(4週1回 10~20mg) |
悪性腫瘍 |
||
イバンドロネート (商品名:ボンビバ) |
経口(1ヶ月1回 100mg) 注射(1ヶ月1回 1mg) |
骨粗鬆症 |
|
第3 |
リセドロネート (商品名:アクトネル、ベネット) |
経口(1日1回 2.5mg、1週1回 17.5mg、1ヶ月1回 75mg) |
骨粗鬆症 |
ミノドロネート (商品名:ボノテオ、リカルボン) |
経口(1日1回 1mg、 4週1回 50mg) 注射(3~4週1回 4mg) |
悪性腫瘍 |
|
ゾレドロネート (商品名:リクラスト、ゾメタ) |
注射(1年1回 5mg) |
骨粗鬆症 |
薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)
MRONJの診断基準
1.現在あるいは過去に骨吸収抑制薬か血管新生阻害薬による治療歴があること。
2.医療従事者により、口腔・顎・顔面領域に骨露出か骨壊死、もしくは口腔内外の瘻孔からプローブなどで骨の蝕知が可能な状態が8週間以上の持続を確認されること。
3.顎骨への放射線照射歴がなく、明らかな顎骨へのがんなどの転移がないこと。
また、骨の露出が認められない、もしくは骨露出が8週未満の場合でも臨床経過や症状によってMRONJステージ0と診断することもあります。
MRONJは、全身の中で顎骨に多く報告されてきましたが近年では、外耳道骨壊死も報告されています。顎骨に多く発生する理由としては、顎骨の特殊性が関連していると考えられており、歯の植立や口腔内細菌、歯性感染による感染波及などが挙げられます。
BRONJの病気分類
病 期 |
症 状 |
治療方針 |
ステージ0 |
骨露出・骨壊死はない、深い歯周ポケット、歯の動揺、潰瘍、 膿瘍、開口障害、下口唇の知覚異常(Vincent症状) 画像:歯槽骨の硬化、歯槽硬線の肥厚と硬化、抜歯窩の残存 |
抗菌性洗口薬の使用 瘻孔や歯周ポケットの洗浄 局所的な抗菌薬の塗布、注入 |
ステージ1 |
無症状で感染を伴わない骨露出・骨壊死・プローブで骨の蝕知が可能な瘻孔 画像:歯槽骨の硬化、歯槽硬線の肥厚と硬化、抜歯窩の残存 |
ステージ0と同治療 |
ステージ2 |
感染を伴う骨露出・骨壊死・プローブでの骨の蝕知が可能な瘻孔 画像:歯槽骨~顎骨に及ぶびまん性骨硬化・骨溶解混合像、下顎菅の肥厚、骨膜反応、上顎洞炎、腐骨形成 |
抗菌性洗口薬と抗菌薬の使用 難治症例:複数の抗菌薬の併用、 長期抗菌薬療法、連続静注抗菌薬療法、腐骨除去、壊死骨掻爬、顎骨切除 |
ステージ3 |
ステージ2に加えて、下記の症状を伴う ・歯槽骨を超えた骨露出・骨壊死 ・病的骨折や口腔外瘻孔、鼻・洞口腔瘻 ・下顎下縁や上顎洞までの進展性骨溶解 画像:周囲骨(頬骨、口蓋骨)の骨硬化・骨溶解進展、下顎骨の病的骨折、上顎洞底への骨溶解進展 |
腐骨除去、壊死骨搔把、 感染源となる骨露出・壊死骨内の歯の抜歯 栄養療法 壊死骨が広範囲の場合:顎骨の辺縁切除や区域切除 |
薬剤関連顎骨壊死の発生頻度
発生頻度は、BP製剤の経口薬において、米国口腔顎顔面外科学会(AAOMS)では0.01%、欧州口腔顎顔面外科学会では0.01%~0.04%、ONJ国際タスクフォースでは0.001~0.069%、日本では0.01%~0.02%と報告されています。また、BP製剤の注射薬においては、AAOMSでは0.8%~1.2%、欧州口腔顎顔面外科学会では0.88%~1.15%、日本では1~2%と報告されています。
薬剤関連顎骨壊死が顎骨に発生しやすい理由
1.顎骨を覆っている粘膜が薄い
2.口の中の細菌(口腔常在菌)は800種以上、1011~1012個/cm3の口腔内細菌がいるといわれている
3.顎骨は歯が突き出て埋まっているため完全に粘膜で被覆されていない
4.抜歯などの外科的侵襲処置の後、顎骨は口腔内に露出しているため感染を受けやすい
5.虫歯など、歯を介して顎骨に感染、炎症を波及しやすい
BRONJ発症の危険因子
発生契機としては、抜歯が最も多く、次いで根尖性歯周炎、辺縁性歯周炎、義歯の不適合と続きます。また、自然発生したケースも報告されています。
このように通常の歯科治療で発生する頻度は少ないのですが、抜歯ではやインプラント埋入手術、歯周外科手術などの骨への外科的歯科処置によって発生頻度が上昇すると言われています。
しかし、BRONJの発生を懸念して保存困難な歯や予後不良な歯まで抜歯せずに残すことは、さらに感染を波及させ、病気を悪化させてしまいます。
なので、過剰に抜歯を恐れて避けることは、病悩期間を長くしてしまうので、対処をよく考える必要があります。
BRONJの発生危険因子は、1.局所性、2.薬剤、3.全身性、4.先天性、5.生活歴、6.併用薬などが挙げられます。
局所性因子として、抜歯などの外科的な歯科治療以外で不適切な義歯などによる傷から発生することもあり、定期的な口腔管理や口腔ケアが重要です
BP製剤服用中の歯科治療
虫歯の治療や歯の根の治療、矯正などの治療においては問題はないとされています。
骨への侵襲が伴う抜歯やインプラントなどの治療の対応については、投与期間によって変わってきます。
BP製剤内服期間が4年以上の場合は、全身状態が許せれば休薬したのち抜歯を行うのが望ましいです。休薬期間は最終投与から2か月の休薬が推奨されています。また、4年に至らない場合でも、副腎皮質ステロイド薬の併用や糖尿病、喫煙がある場合は特に重要な危険因子とされ、休薬を考慮すべきです。それ以外に血管新生阻害剤、抗がん薬や免疫抑制薬の使用、関節リウマチなどが発生危険因子とされています。
BP製剤内服期間が4年に満たず、かつ発生危険因子もない場合は休薬の必要はないとされています。
また、骨への侵襲が伴う歯科治療時には、術前より抗菌薬の投与を行います。BRONJの露出骨からの分離菌の多くはペニシリン系抗菌薬に感受性があるとされており、第一選択になります。
術後は、経過観察と口腔ケアを十分に行い、感染予防を行います。BP製剤の再開は、骨性治癒が起こる3カ月程度したのちが望ましいですが、長期休薬が難しい場合には、14~21日経過後に再開するようにします。歯科インプラント治療に関しては無理に行うべきではないとされています。
まとめ
日本では薬剤関連顎骨壊死の発生症例は骨粗鬆症が多く、ある程度治療指針が示されてきていますが、BP製剤だけでなく、デノスマブや血管新生阻害剤などの多剤への対応も検討していく必要があると思われます。薬剤への休薬や治療法等、更なる検討が必要です。
※参考文献
森川 貴迪、芝原 孝彦:BRONJ・ARONJ・MRONJの現状と課題.日本歯科医師会雑誌, 69(10) : 977~986, 2017